PROJECT CROSS TALK03

素形材事業 水アトマイズ製 金属粉末の開発と拡販プロジェクト座談会

電子機器の進化を支える金属粉の特性改善への挑戦

PROJECT
CROSS TALK03

素形材事業 水アトマイズ製 金属粉末の
開発と拡販プロジェクト

電子機器の進化を
支える金属粉の特性
改善への挑戦

PROLOGUE

三菱製鋼は、自動車、航空・船舶、エネルギー、エレクトロニクスなど、幅広い分野で使用される金属粉を各用途に合わせた特性を持たせて製造しています。「金属の粉から部品ができる」と言われても、イメージが沸きにくいかもしれません。でも金属粉でつくられた部品は、とても身近なところで、私たちの暮らしを支えているのです。皆さんが使っているノートパソコンの基板や、スマートフォンの外装なども、金属粉を焼き固めてつくられた部品が必需品となっています。将来においても需要の拡大が見込まれる金属粉の市場を開拓していくために、三菱製鋼では生産設備の革新が進められています。

久米 慶太 KEITA KUME

素形材事業部AMセンター室 兼 技術開発センター研究第二グループ

設置された試作ラインを使った試験製造の実施と評価結果の検証を行っている。入社から一貫して金属粉の製造、研究開発に携わってきた実績あり。

相原 道孝 MICHITAKA AIHARA

広田製作所 製造部 粉末グループ長

金属粉の生産活動を管理するリーダー。量産ラインを管理しながら、同プロジェクトの金属粉末の特性改善に向けた試作ラインの社内認可から設備の設置までを担当

プロジェクトの背景

市場から求められる金属粉の特性に対応するために

相原
金属部品を製造する工法は複数ありますが、粒径の細かい金属粉末を使用すると、小型で複雑な形状の部品をつくることができ、様々な装置や電子部品などの小型・薄型化、高性能化につながります。こうした理由で金属粉の需要が高まるとともに、そこに求められる特性もよりシビアなものとなってきています。三菱製鋼では以前から、水アトマイズ法で金属粉をつくってきましたが、従来の製造条件による金属粉では、現在のニーズに対応できない部分が出てきてしまいました。そこで、水アトマイズ法を使って、より特性の優れた金属粉をつくるために、試作ラインの導入を提案しました。
久米
プロジェクトが立ち上がった当時、私は千葉製作所内にある技術開発センターで勤務していましたが、それ以前は広田製作所で働いていたこともあり、当社の水アトマイズ法でつくる金属粉はもっと優れた特性のものがつくれるのではないかと考えていました。なおかつそれが小手先の改善では実現できないということも、十分に分かっていました。ですから、「新たに試作ラインを導入して新しい製造方法を検討する」というプロジェクトにGoサインが出たと聞いた時は、金属粉の事業の未来につながる価値ある取り組みだと感じました。まさか、自分自身が広田製作所に戻って、そのプロジェクトに関わることになるとはその時点では夢にも思いませんでしたが。

乗り越えた壁

未知のノウハウを求めて、試作を繰り返す

相原
水アトマイズ法では、高温の溶湯(溶けた金属)に高圧の水を噴霧し金属粉を製造します。この説明だけを聞くと非常にシンプルな方法に思えますが、直接目視ができず、ほんの一瞬で生じる現象が連続するため、これまで以上にデータを採取しながら粉末特性を改善することが今回の試作ライン導入の目的です。「これを使って試作ラインをつくればいい」という装置が世の中に存在しませんから、これまでの量産活動で培ってきた経験をベースに、自分たちで設計しなくてはならず、大変な苦労がありました。さらに、既存の工場内の限られたスペースに試作ラインを設置することも容易ではありませんでした。
久米
私は現在、相原さんが中心となって設置した試作ラインを使って、金属粉の特性改善を推進しています。金属粉を試作して性能を評価し、その結果を基に検討した新しい製造条件で次の試作を行う。こうした作業の繰り返しで、目標とする特性を持つ金属粉を、安定的につくるための製造条件を探っていきます。まだどこにもない答えを見つけ出すという、難易度の高い仕事です。しかし、私が所属する、先進的な製造方法に取り組む専門部隊であるAMセンター室と、粉末グループに所属するエンジニア、さらには金属粉に関する豊富な知見を有する技術開発センターの研究者たちが協力することで、少しずつノウハウを得てきており、「何とか乗り越えられそうだ」という手応えを感じています。

印象に残る出来事

誰もが特性改善への高い意欲を示してくれた

相原
このプロジェクトを始めるにあたって、自分たちで設計した設備を導入し改善を行えるという期待と、不安が混在していました。不安というのは、生産現場の皆さんが試作ラインに興味を持ってくれるかということです。けれども、心配はいりませんでした。試作ラインで行う特性改善の目的や、事業の未来に向けた重要性を丁寧に何度も説明することで、誰もが全面的に協力してくれました。また生産ラインの責任者としては、試作ラインの導入に伴う作業の安全対策、作業性の確認についても試作ラインの構想図を見ながら現場作業者と何度も納得いくまで協議を行い無事完成に至ったことも非常に印象に残りました。
久米
私も相原さんと同じく、生産現場の皆さんに、試作ラインがどう受け入れられるかを心配していました。試作ラインで新しい製造方法を行うということは、慣れ親しんだ仕事のやり方を変えることであり、誰もが消極的になりがちだからです。でも、結果的には皆さんが金属粉の品質向上に意欲を持ってくれ、スムーズに試作を進めることができています。将来有望な金属粉に関わっていることに誰もが誇りを感じているから、前向きに取り組んでもらえているのではないでしょうか。

プロジェクトの現在地

量産開始、製品の拡販に向けて、試行錯誤は続く

久米
金属粉の製造は、教科書といえるものが全く存在しない世界です。各社がそれぞれに独自のノウハウを蓄積しています。ですから、理想の製造法を探求するための情報やアイデアを得ることが難しい中で、「どうすれば改善に結びつくのか」を自分たちで懸命に考えていかなくてはなりません。そうした手探りの開発を進める上での拠り所となるのが、稼働中の設備や材料の状態を計測した各種データです。昨今、製造業ではセンシング技術やIoT技術によって集めた膨大なデータをいかして、イノベーションを目指す取り組みが活発化しています。私たちの金属粉においても、データの収集や分析を徹底することで、目標とする特性を実現するために必要なものを見つけて、迅速に量産ラインへの展開につなげていけるのではないかと考えています。
相原
私は今回のプロジェクトで水アトマイズ法を使った金属粉の特性改善に取り組み、久米さんと同様に、答えが見えない状態で判断を下すことの難しさを痛感しました。しかし、それと同時に、「一人の力では太刀打ちできないミッションでも、複数の人が知恵を絞り続ければ、着実にゴールに近づいていけること」が改めて分かり、貴重な経験ができたと感じています。試作ラインで溶湯から金属粉をつくることさえ、うまくできない状態からスタートしたプロジェクトですが、ようやく量産ラインでの展開が見えてきました。一日も早く試作ラインでの成果を量産ラインに展開することで、営業部門が金属粉の拡販に存分に注力できる体制を実現したいと思います。

プロジェクトの先に

変化を続ける市場とともに、進化を続けるものづくり

久米
金属粉の特性改善プロジェクトは、未だ道半ばといえます。課題解決という目的のためにつくられた試作ラインの製造条件をそのまま量産ラインに展開しても、思い通りの結果を得るとは限らないからです。そして目標とする特性を満たした金属粉のつくり方を確立できたとしても、私たちはまた次の課題に向き合わなくてはならないでしょう。金属粉に求められる特性は、時代とともに変化するからです。たとえば通信が5Gから6Gの時代になれば、私たちには再び新しい金属粉への挑戦が待っています。
相原
久米さんの話にあるように、市場のニーズによってつくる金属粉が変化するところに、私たちの仕事の面白さがあります。未来の金属粉にどんな特性が求められるのか、はっきりと見通すことは困難ですが、間違いなく成長する分野ですから、高いモチベーションを持って仕事に取り組んでいきたいと思います。