PROJECT CROSS TALK01

特殊鋼鋼材事業 タンデッシュ誘導加熱装置導入プロジェクト座談会

ビジネス拡大に向けた新規生産設備の導入

PROJECT
CROSS TALK01

特殊鋼鋼材事業
タンデッシュ誘導加熱装置
導入プロジェクト座談会

ビジネス拡大に向けた
新規生産設備の導入

PROLOGUE

生産設備は、時代のニーズに合わせて進化させていかなくては、価値をつくり出すことができなくなってしまいます。顧客から求められる、より強くて、より硬くて、よりしなやかな特殊鋼をつくるために、三菱製鋼では最新技術を取り入れた生産設備の更新に取り組みます。工場の心臓部ともいえる生産設備の導入は、一日にしては成りません。まずは設備の仕様を決めてプラントメーカーに発注し、完成した設備の工場内への据付工事を実施。続いて狙い通りの特殊鋼をつくり出すために幾度もの試験鋳造を行って操業条件を確立。これらのプロセスを経て初めて、新たな生産設備による操業をスタートすることができるのです。

木村 太一 TAICHI KIMURA

室蘭製作所 製造部 製鋼グループ長

導入設備の仕様検討~設置工事~試験鋳造~操業後のオペレーション体制をトータルで管理する。

瑞慶覧 敏郎 TOSHIROU ZUKERAN

室蘭製作所 設備部 設備グループ

主電源を構成するトランス、設備をコントロールする要となる制御盤など、電気関係全般工事を担当した。

プロジェクトの背景

ハイグレード特殊鋼の生産力向上を目指して

木村
当社は、多種多様な特殊鋼を提供する力を持っています。しかし、各種産業機械のエンジン、減速機、モーター等の回転体を支える転がり軸受に使われるグレードの高い鋼については、生産力が不十分でした。そこで2017年頃より「製鋼」の最終工程である「連続鋳造ライン」にタンデッシュ誘導加熱装置を導入する検討が行われてきました。 この設備の導入により連続鋳造段階での溶鋼加熱・温度コントロールが行えるようになるため、鋳造温度を低温かつ安定化させることが可能です。すると中心偏析(鉄が固まる時に中心部に不純物が集積されること。鋼材のもろさの原因となる。)低減につながります。また、溶鋼加熱によって生じる電磁力を利用し、転がり軸受にとって重要な特性である転動疲労寿命に影響する清浄度(非金属介在物の数やサイズ、不純物量)を改善することも期待できます。
瑞慶覧
タンデッシュ誘導加熱装置などの生産設備は、機械設備と電気設備に大きく分けられます。私が担当したのは、機械設備を動かすために必要な電源や制御盤といった電気設備の工事全般です。プロジェクトに参加したのは、新規設備に関する様々な検討が終わり、正式にタンデッシュ誘導加熱装置の導入が決定したタイミングでした。まず私は、装置を動かすための電気的な設備の仕様を確認するところから仕事を始めました。電源を供給する能力が工場内にあるのか確認するため、プラントメーカーと電気的な容量の打ち合わせを行いました。私にとっては、これまでに扱ったことのない高電圧の装置でしたから、身が引き締まる思いがありました。

乗り越えた壁

生産活動への影響を最小限に抑えつつ、新規設備を工場内へ

木村
このプロジェクトでの私の役割は、導入する新規設備のハード面と操業面の両方を考慮しながら仕様検討を行うことでした。また新規設備の設置工事においては、工場の操業への影響を最小限に抑えるため、5日間という限られた期間内で実施することも求められました。
瑞慶覧
設置工事において私が苦労したのは、トランス(変圧器)と制御盤の設置場所の確保でした。既存の設備が設置されている工場内のスペースは、非常に限られています。当初の計画上で設置を予定していた場所があったのですが、いざ設置してみるとその環境が悪く、本格的な仕様取り決めを行った際に設置環境が悪いことが懸念されたので、より安定して設備を稼働させるために、設置場所の再検討及び確保を行う必要がありました。またタンデッシュ誘導加熱装置のような高電圧の装置を初めて扱った私としては、ケーブルなどから発生するノイズについて、他の機器への影響を考慮しながら、設置工事を進めることも簡単ではありませんでした。さらに設置後に、実際の操作にあたる作業者が感電などの事故にあわないように、安全なオペレーション方法の教育という課題にも取り組みました。

印象に残るシーン

緊張の中で迎えた、初めての試験鋳造

木村
従来にない設備を導入するプロジェクトには、「実際に稼働させないと、分からない」という難しさがあります。もちろんあらかじめ様々なリスクを想定してはいますが、思いもよらないことが起こります。それに打ち勝ってゴールにたどり着くところに、プロジェクトの醍醐味があります。今回のプロジェクトにおいても、設置工事が終わり試験鋳造を始めようとした時に、「誘導加熱タンデッシュの内側に施工している耐火物が脱落してしまい、試験ができなくなる」というハプニングがありました。かなり焦りましたが、メンバーたちに協力してもらい、なんとか乗り切りました。みんなでアイデアを出し合うことで、耐火物の材質の見直しや施工方法の変更をスピーディに実施することができました。
瑞慶覧
私は、設置工事が終わって、初めてタンデッシュ誘導加熱装置を使った試験鋳造を開始した日のことが、とても印象に残っています。工場内の操作室に関係者が集まって、設備が立ち上がるのを固唾を呑んで見守っていました。今話に出た耐火物のトラブルはありましたが、試験鋳造自体には、木村さんは自信を持っていらっしゃったのではないですか?
木村
そんな風に見えていましたか?そんなことはありません。自信もありましたが、不安でいっぱいでした。誰にも言っていないのですが、実はあの時、私は気が気ではありませんでした。自分たちが考えた操業条件で実際に鋳造できるのだろうか、目指す品質の特殊鋼をそこまでつくれるのだろうか?と、前日の夜はよく眠ることができませんでした。

プロジェクトから得たもの

問題を一つずつ潰していけば、目標に到達できる

木村
私は入社2年目に、海外の製造拠点で設備の立ち上げを経験しています。だたしその時は、先輩の後を付いていった形でしたから、自分が主体となってプロジェクトを進めるのは初めてでした。今回のプロジェクトでは、耐火物の脱落など様々なトラブルへの対応を通して、「いろいろな問題があっても、その都度解決案を出して一つずつ潰していけば、最終的には目標に到達できるのだ」と学ぶことができました。
瑞慶覧
高電圧の機器を使用する設備なので、大きな事故もなく稼働させることができて、何よりも良かったと感じています。タンデッシュ誘導加熱装置は、設置工事も無事に終わり操業も始まっていますが、これからは運用後のメンテナンスが私のテーマとなります。安全かつ簡単にメンテナンスができる装置にできるよう、電気設備に改良を施したり、操作方法の協議を重ねていくことなると思います。タンデッシュ誘導加熱装置が会社のビジネスに本格的に貢献できるようになるまでには、まだまだ自分の仕事が残っています。

次のプロジェクトに向けて

それぞれの胸に湧き上がってきた価値創造と事業拡大への思い

瑞慶覧
私の場合、通常は老朽化した設備の更新に関わる業務を多く担当します。そのため、タンデッシュ誘導加熱装置の新規導入のように、設備を通した品質やコスト面での付加価値創造を意識することはほとんどありませんでした。ところがタンデッシュ誘導加熱装置のプロジェクトに携わる中で、「自分が日常的に手掛けている老朽化設備の更新でも付加価値創造を意識すれば、仕事がもっと面白くできるのではないか」と感じるようになりました。自分が担当する設備によって、三菱製鋼の生産ラインのDX(デジタルトランスフォーメーション)やカーボンニュートラルの推進といった未来価値の創造に貢献していきたいと思っています。
木村
会社の業績に関わるプロジェクトに参加する中で、将来の成長やステップアップにつながる貴重な経験を得ることができました。新しく自分のものにした知見をいかして、これからもいろいろな大型設備の導入に挑戦して、三菱製鋼の鋼材の品質向上、ビジネスの拡大を支えていきたいと考えています。