TCFD提言に基づく情報開示
当社は2021年11月に、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」による提言への賛同を表明いたしました。
当社では、このTCFD のフレームワークに基づき、気候変動に起因する事業リスクやビジネス機会とその財務的影響等についての情報開示を行っております。
1. ガバナンス
気候変動へのマネジメント体制
- 当社では、サステナビリティ委員会(委員長:社長執行役員)にて、気候変動を含むサステナビリティに関する重要課題を審議するとともに、取締役会においても原則毎月、サステナビリティに関する審議を行っております。
- サステナビリティ委員会の下部組織として、「地球環境委員会」、「カーボンニュートラル委員会」、「ESG推進室※」を設け、気候変動リスク及び機会に関する評価、管理を含む当社のサステナビリティ推進に向けて、全社横断的に対応できるマネジメント体制としております。
- 2021年11月にTCFD提言の趣旨に対し賛同を表明し、2022年にはTCFD提言に基づく開示を初めて実施いたしました。 2023年は、事業部ごとにリスク・機会を再評価し、シナリオ分析、財務インパクト評価を行った上で、対応策についても改めて再整理するとともに、鋼材部門のCO2削減目標の引き上げを行いました。
- ※ESG各課題への取り組み強化、情報開示のさらなる充実・高度化を推進し、社内外への浸透を図るための非財務情報を統括する「ESG推進室」を新設。
サステナビリティ委員会 | カーボンニュートラル委員会 | ESG推進室 | |
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気候変動課題への役割 | TCFDシナリオ分析の実施や、気候変動に関する取り組み方針・内容の策定 | カーボンニュートラルに向けた取り組み方針・計画・目標の立案と実行 | 気候変動に関する外部情報収集及び社内外への発信 |
気候変動課題に関する 2023年度の活動内容 | 2023年度は9回開催しておりますが、その内で気候変動関連の議題は5回開催され、議論がなされています。また、サスティナビリティ委員会での協議内容については、取締役会でも報告を行いました。 | 総量換算で約△15%に留まっていた2030年度のMSMグループCO2排出量削減目標を△30%まで引き上げ、GXリーグへの参画を表明いたしました。また、Scope3についても新たに開示を行いました。 | TCFD提言に基づく開示内容の高度化を図るため、リスク・機会の影響度を定量的に表現しました。また、新たに統合報告書の発行やESG説明会を開催するなどして、気候変動関連の開示拡充を図りました。 |
サステナビリティ体制図については、サステナビリティ推進体制をご覧ください。
2. 戦略
シナリオ分析の前提条件
- 当社は、国内事業を対象とし、2030年、2050年の時間軸にて、今世紀末の平均気温上昇を1.5℃未満に抑えるために、世界的な気候変動対策が成功するシナリオ(気候変動関連規制等により主に「移行リスク」が顕在化する1.5℃シナリオ)と、不十分なままとなるシナリオ(自然災害の増加等により主に「物理リスク」が顕在化する4℃シナリオ)の2つのシナリオを用いてシナリオ分析を実施いたしました。
- シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)等のシナリオを参照しています。1.5℃シナリオ、4℃シナリオの概観は、下記のとおりです。
リスク | 各シナリオにて想定される社会像 | シナリオ分析で参照した外部シナリオ |
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1.5℃シナリオ (移行リスク) |
| 国際エネルギー機関(IEA)World Energy Outlook Report 2023
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4℃シナリオ (物理リスク) |
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- ※1APS:Announced Pledges Scenario、NZE:Net Zero Emissions Scenario、SDS:Sustainable Development Scenario
- ※2SSP5:世界経済の発展が化石燃料エネルギー資源に依存する経路、RCP8.5:排出量が21世紀を通じて増加し続ける高排出経路
リスク・機会への対応に向けた取り組み
● 鋼材切断用ガスの水素代替活用によるCO2削減
鋼材製造工程におけるガス切断装置に使用するLPGを水素へ転換することで、CO2排出量 ゼロを目指します。23年12月に量産試験用の設備導入を完了し、切断試験を実施。今後は水素量の調整を行いながら、量産試験を継続していく予定です。
● 自動車用巻ばねの戻し炉コンベアの省エネ化
自動車用巻ばねの戻し炉工程において、コンベア上に設置する「搬送用のコンベアスラットプレート」を薄肉化・穴あけして、軽量化を行いました。これにより、加熱に使用するエネルギー(都市ガス使用量)を削減することができました。(CO2削減量に換算すると、年間約560tの削減)
● BCP(事業継続計画)の策定・見直し
危機発生時に迅速な情報収集や統括的な指示が可能となるよう、甚大災害に対するBCPを策定。
定期的なBCPの周知教育や、策定したBCPを使用した机上訓練を行うことで、BCPの検証及び見直しを図っています。
製品大型化に対応できる当社グループの強みを生かして、洋上風力の国産サプライチェーン構築に寄与すべく事業拡大を進めています。
中計方針「戦略事業の育成」の一つとして推進中です。
詳しくは、こちらをご覧ください。
廃家電などから各資源を高精度に分別し、リサイクル可能な資源を回収する各種選別機を組み合わせた選別ラインを開発することで、「サーキュラーエコノミー」に貢献しています。
- EVの普及に伴う「将来的な銅不足」の課題解決に寄与。
- スマートフォンやEVに使用される「リチウムイオン電池」や「太陽光パネル」等の廃棄時における希少金属回収のニーズへの対応も進めている。
詳しくは、こちらをご覧ください。
戦略事業の育成(2023中期経営計画)
- 当社は、シナリオ分析において大きな財務影響を与える機会への対応策として特定した各製品を、今後育成すべき戦略事業として「2023中期経営計画」 へと織り込んでおります。これらの戦略事業の育成を進め、戦略事業構成比率を50%に引き上げることで事業ポートフォリオの変革を進め、サステナビリティ経営を実現してまいります。
戦略のレジリエンス
- 気候変動は当社事業にリスクと機会の両面で影響が大きいことから、当社の中長期的な成長に向けて重要な経営課題の一つとして認識しております。
- 世界的な気候変動対策が成功する1.5℃シナリオでは、炭素税等の気候変動に関連する規制の強化が予想され、原材料や製造工程のカーボンニュートラルに向けた取り組みが必須となります。当社は、カーボンニュートラルの段階的実現に取り組むと同時に、脱炭素化の進展により新たに成長する市場向けの製品(顧客の脱炭素化に資する製品(例:カーボンニュートラル鋼・カーボンニュートラルばね・カーボンニュートラル特殊合金粉末※4)、EV・CASE関連部品、半導体や電子部品、エネルギー(主に洋上風力)関連部品)の販売を強化します。洋上風力発電関連機器及びサーキュラーエコノミーに貢献する製品(磁力選別機、シュレッダー用ハンマーなど)の受注拡大や、軟磁性粉末(CASE対応を含む電子部品向け)等の金属粉末の成長にも注力するなど、事業の拡大を図るとともに、脱炭素化の実現に貢献してまいります。
- また、世界の気候変動対策が不十分なままとなる4℃シナリオにおいては、1.5℃シナリオに比べ、移行リスクの影響は限定的に留まりますが、突発的な自然災害の増加による工場設備や製品の破損、サプライチェーンの寸断等が多発すると予想されるため、事業継続計画を強化していくとともに、調達先の分散化や在庫維持などサプライチェーンの維持管理にも取り組みます。
- 当社は、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みや気候変動により新たに成長する市場への参入等、気候変動に関するリスクの軽減と機会の獲得に向けた各種対応策を検討・実施しており、複数シナリオを前提とした分析を踏まえ、事業運営におけるレジリエンス性を検証しています。今後も、今回の分析に関する情報のアップデートやモニタリングを実施し、各種施策の推進をより効果的なものにしていきます。
- ※4CO2フリー電力を使用して製造した鋼材・ばね・特殊合金粉末
3. リスク管理
気候変動リスクへの管理体制
- 気候変動リスクの管理体制について、移行リスクはサステナビリティ委員会、物理リスクやその他のリスクはリスク管理委員会で管掌しています。
- リスク管理のプロセスとしては、リスク管理委員会・サステナビリティ委員会を通して全社的な短期・中期・長期リスクの特定・評価・対応策の検討を行い、取締役会にて監督を行っています。
- カーボンニュートラル関連を含む設備投資については、企画部門を主体とした投融資委員会で事業計画及びリスクを精査し、審議を実施しています。
- BCPについては、リスク管理委員会にて、災害発生時に各部門・事業所・子会社での対応や復旧が滞りなく行われるよう、策定・検証及び見直しを行っています。
4. 指標と目標
カーボンニュートラル達成に向けた指標と目標については「カーボンニュートラルに向けた取り組み」をご覧ください。